実装とテストは AI に任せる。次の時代のエンジニアの仕事はもう始まっている
執筆者
Rui Onodera CTO
前回の記事に、2週間かかっていたソフトウェア開発が2日で終わるようになったと書きました。ここまで早くなったのは、エンジニアの仕事の中心だった実装とテストを AI に任せられるようになったからです。
その分、エンジニアには余力ができています。
この余力をどこに使うか。私が見てきた先進的な現場では、エンジニアが次の仕事を担い始めています。また、アメリカではこういった仕事に新しい職種名が付いており、その求人は急増しています。
エンジニアリングとは仮説検証の繰り返し
エンジニアリングとは、科学を応用して人の役に立つものを作り出すことです。ソフトウェア開発に限らず、橋を架けるのも、自動車の生産ラインを改善し続けるのも、ロケットを打ち上げるのも、どれもエンジニアリングです。
その中核は、仮説を立てて、作って、検証して、直す、この繰り返しだと私は考えています。問われるのは、時間や予算といった制約の中で、この仮説検証のサイクルをどれだけ速く回せるかです。
エンジニアリングを適用する対象が変わっても、この中核は変わりません。
事業側にもエンジニアリングを持ち込む
事業側でも、仮説検証そのものは毎日回っています。営業の PDCA、販促の企画、価格の見直し。SFA や CRM といった業務ツールが入り、デジタル化も一通り済んでいる会社がほとんどだと思います。
それでも、ツールとツールの間はたいてい人が埋めています。転記して、集計して、確認して、報告する。作った人がもう社内にいない複雑な Excel を、中身は分からないまま受け継いでいる部署もあります。デジタル化は済んでいるのに、運用はいまだに手作業のままです。
こういった事業側の手作業も、開発側の実装やテストと同じように、もはや AI に任せられます。ただし任せるには、ツールとツールを安全につなぎ、ユーザーと AI の権限を整理する必要があります。この AI 導入こそが、エンジニアリングです。
ある組織では、エンジニアが受発注システムと AI をつないで、受注業務を AI に任せました。届いた発注書を読み取り、金額や数量、発送先を確かめて、受注として登録するところまでこなしてくれます。担当者は入力や照合から離れ、納期の回答や条件の調整など、顧客と向き合う仕事に専念する。エンジニアが実装とテストを AI に任せたのと同じことが、事業側でも始まっています。
エンジニアの余力の使い道は、ここにあります。事業側の AI 導入を任せたエンジニアは、組織全体の生産性を引き上げる倍率器になることができます。
次の時代の職種にはもう名前がある
アメリカでは、こういった仕事がエンジニアの新しい職種になっています。社内の業務に AI を組み込む AI Enablement Engineer や、営業やマーケティングに AI を組み込む GTM Engineer(Go-To-Market Engineer)などです。後者の求人は直近1年で約3倍になりました。さらに、自社の製品を顧客の現場に持ち込んで機能させる仕事は FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれ、求人は1年足らずで9倍に増えました。
こういった動きは、日本においても急速に広がっています。例えば GTM Engineer は、国内の転職サービスに新しい職種カテゴリとしてつい最近追加されました。FDE にいたっては、年収1,000万〜2,000万円の求人が並び、専門の求人サイトまで生まれました。
これら次の時代の職種に一番近いのは、これまでソフトウェアを作ってきたエンジニアたちです。
素養を見抜き、専任にして、経営が支える
なかでも近いのは、AI を使いこなし、部署の垣根を越えて主体的にコミュニケーションをとり、動くものをその場で作って見せて直していくようなタイプのエンジニアです。
ただし、こういった人材を抜擢するだけでは足りません。私が関わる組織の一つでは、社内業務への AI 導入に専任させ、さらに経営が後ろ盾となって推進する体制を整えて、ようやく社内に定着させることができました。
次の時代のエンジニアの仕事はもう始められる
実装とテストを AI に任せたエンジニアは、仮説検証のサイクルを回すことそのものに集中できるようになりました。
彼らを次の時代のエンジニアとして活かし、事業の成長につなげられるかどうかは、経営の判断で決まります。